S女とM男の昼下がり~歯医者でSM?

昼下がりのことだ。
目の前の人妻は、おもむろに人差し指を私の口の中に入れてきた。
そしてこう呟く。
「この歯と、この歯ですね」
「ふぁぃ」
歯医者に来たのは何年ぶりだろう。
奥歯の磨きにくいところに、黒いシミが現れたのには気がついていた。
ただ、長野に下宿したこともあって、行きつけの歯医者から500kmも離れてしまえば、私でなくとも通う気が失せるだろう。
そうこうしているうちに大学も卒業してしまい、「あぁ学割がきかなくなった」とトンチンカンなことを思うほど医者離れが進行していた。
いよいよ口の中のシミは、「このハイチオールCでターンオーバーしてくれ」という願いも届かず、ホクロだいの大きさにまで成長したのだ。
そして完全予約制、予約三週間待ちの超人気歯医者にやってきたわけである。
予約制の歯医者というのは、待っている人がいないイメージがある。
が、さすが超人気歯医者。ここは違った。
私の前に「子どもを中学にやっている間に来ました」といった感じの主婦、「ちょっと早めの定年退職をしたんだ」的な雰囲気の叔父様がいる。
そして受付のお姉さんは28歳ぐらいで、いつもなのかこの日だけなのか、電話をかけまくっていた。
「はい、もしよろしければ、明日の11時のご予約なんですが、今日いらしてもらえることは可能でしょうか?…はい、はい、実はですね」
目の前の張り紙を見て驚いた。
院長が肋骨を骨折しまして、固定での治療となっております。どうかご了承ください…
というようなことが書いてあるではないか。
「あ、そうですかぁ。ありがとうございます。では今日の2時頃お待ちしております。失礼いたしました(ガチャ)…アフロさん、どうぞお入りください」
この歯医者の人気は何なのか?何が私を三週間も待たせたのか?
挙げ出せばキリがない不安の種を、そんな疑問でだましながら治療室へと入っていった。
「はい、アフロさん、椅子を倒しますね」
驚いた。
目の前の景色が下がっていくではないか。遊園地か。
上がる感覚なしに椅子を上げられたのは、美容院でも理容室でも耳鼻科、それこそ今までの歯医者でもなかった体験だ。
これか!?これが私を三週間待たせたのか?…くだらん。
上がりつつ倒れていく椅子に体をまかせていると、視線が天井に向いた。
驚いた。
「はい、では口を開けてください」
映画『呪怨』では、寝床に入って天井を眺めた瞬間、青白い男の子が、にゅっ、とのぞいてきてそりゃぁもう戦慄ものだったが、
なんだこの美人は。
歯科衛生士さんなんだろうか?
茶色の長い髪を、巫女さん風に束ねた女性が、私のために青のアイライン、マスカラ、目元バッチリメイクで、膝枕をしてもらっているときのようなアングルから…口の中の歯を片っ端から鋭利なもので突っついていく。
これか!?これが私を三週間待たせたのか?…く、くだ…らん。
ほら、マスク外したら口裂けてるかもしれないし。
「はい、椅子戻しますねぇ。一度ゆすいでください」
言われるがまま、口を備え付けのコップでゆすぐ。
コップに水がたまる、ちょろちょろという音とともに、
後ろから歯科衛生士のお姉さんと、たぶん歯医者である婦人の声が聞こえてくる。
そういえば、紹介してくれた方が「夫婦でやっている歯医者でね」といっていたのを思い出した。
「左下67と上7、右上下7が…」
「左は7だけして、右はいいや」」
「はい。えっ・・えっと、左6でしたっけ?」
忘れかけていた不安をあおる会話が展開している。
「はい、アフロさん、今日は」
歯科衛生士のお姉さんがもう一度座って、左の7(たぶん)をチェックし去った後、婦人が頭上の椅子に座った。
婦人の声は私の歯が四本虫歯になっていると告げ、今日は左の二つを治すと告げている。
虫歯というのはそんなに早く治るものなのか。
「はい、倒しますよぉ」
目元の優しいメガネ婦人が、掃除機の小さいやつみたいなパイプを口に突っ込んできた。
すさまじい勢いでそれは、唾液を吸い込んでいく。
キーーーーーーーーーーン
「じゃあ削っていきますね♪」
口に指が入っていて有無がいえない…。
右手にドリルを持った奥さんは、語尾に♪が付いているような気がした、目が嗤っているような気がした。
キーーーーーーーーーーーーン
歯が偏頭痛、みたいな感覚がおそう。
キーーーーーーーーーーーーン
「XDTと、フラジールツー持ってきてください」
「………」
きっとドリルの音で先生の声、衛生士さんに届いてないですよ♪、といえる状況じゃない。
キ~ィィン……
「XDTと、フラジールツー…ちょっと急いで」
「は、はい!!」
キーーーーーーーーーーーーン
「ジーボンドとメガボンドお願いします」
ついでにJ・ボンドもお願いします、なんていえない。
キ~ィィン…
「ジーボンドとメガボンドは?」
「あっ、はいっ!!」
なんと女性の多い歯医者だろう。
「少し乾かしますね」
と婦人がいって私の口の中にねじ入れたものは、SMで使う口あけたままにするサルグツワみたいなもので…そんなもので固定されながら、仰向けになったところ、ふと目の端に映ったのは、何かしら固定されたまま治療に励む、男の歯医者さんだった。
S女とM男でヒット中♪)
(すごい、「M男 体験だ」、でもヒット中だ…)

S女とM男の昼下がり~歯医者でSM?」への2件のフィードバック

  1. 固定されたままの男の歯医者・・
    嫌・・・されたくない。
    痛くされそう。
    笑ってる女性の歯医者は、
    目だけならまだいいけど・・・

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